木の幹の色、土の色、『茶色』。大地の色の代表色である茶色は、安心・安定の色と言われています。
地味?暗い?そんなネガティブなイメージとは懸け離れたパワーをもった色、それが茶色です。
私たちの生活には古くから密接していた色です。

茶色が好きなあなたは

時代にも色がある

かつて「ナチュラルカラー」「アースカラー」などのネーミングと共に世の中が茶色に染まった時代がありました。1970年代のオイルショックは色の世界にも大きな影響をもたらしました。景気低迷、狂乱物価、地価の高騰、モノ不足に見舞われた日本は「節約は美徳」「自然回帰志向」と価値観を変え、ライフスタイルも変化していきます。ファッションの世界ではナチュラルカラーを多用したサファリルックやアーミールック、自然の色を取り入れた草木染めなどがブームとなり、家電業界ではナチュラルカラーの冷蔵庫が作られ、ベージュ色の車が走るという第一次エコロジーブームと呼ばれた時代です。
時代の色は世の中の景気が大いに反映されます。茶色は景気低迷時にどっしりと私たちに安心感を与えてくれる色なのです。

リラックス・安心・落ち着くカラー「茶色」

木材をふんだんに使ったナチュラルな色合いのインテリア空間は多くの方に好まれ、また和室が落ち着くのは空間全体の色が大きく影響しています。もともとベージュは私たちの肌色に非常に近いことや個性が少ないことから身近で安心感のある色ですが、プラスしてリラックス効果も高い色です。
色光に対する筋肉の緊張度を測った実験ではベージュは筋肉の弛緩をもたらす色です。また、気分をリラックスさせるα波を出し、その人の持つ感性を十分に働かせることが出来るので、アイデアを生み出すような右脳を働かせる空間や休憩室のようなリラックスした時間を過ごす場所には適した色の一つです。刺激の少ない配色がお好みなら茶系の濃淡や植物の緑、藍色など和の色との組み合わせを、アクセントカラーを効かせるのなら同系色のビビッドオレンジ、反対色の青などもおススメです。

古くから通ずる粋な「茶色」の世界

団十郎茶、芝翫茶、路孝茶、璃寛茶・・・何をイメージされるでしょうか?
これらは江戸時代の歌舞伎役者が好んだ「役者色」の一部です。当時、一大娯楽であった歌舞伎の役者たちは大スターであり、当時のファッションリーダー。
身に付けた着物の色や柄は、浮世絵や瓦版を通して発信され、大流行しました。
現代でも、襲名披露の口上の際には役者たちがそれぞれの色の裃(かみしも)を身につけるなど、代々受け継がれているのです。
江戸時代にはもう一つ特徴的な茶色の豊富さがあります。豊かな商人たちの華々しい生活を取り締まろうとした幕府は庶民の生活に贅沢を禁止する「奢侈禁止令」を発布します。
これにより町人は麻や綿素材の茶色、鼠色、藍色の着物しか着られなくなってしまいますが、江戸っ子たちはこれらの色を「粋な色」として、次々と新しい色を生み出していき、まとめて「四十八茶百鼠」(しじゅはっちゃひゃくねず)と呼ばれました。48種類の茶色と100種類の鼠色の意味ですが、実際にはもっと多くの色が誕生したようです。
(本記事はwebマガジンに掲載した内容を一部編集しています。)